夜明け前の神社は静かだ。
風も息をひそめ、石畳は薄く白む。
俺は猫。
不良だ。

誰に媚びるでもなく、
誰の言うことも聞かず、
ただこの世界を睨みながら生きてきた。
気まま?
あぁ、そう見えるようにしてるだけさ。
本当は、見てる。
ずっと、見ている。
人間を。
■ 優(不良猫)
人間ってのはおもしれぇよ。
寂しいくせに強がり、
弱いくせに背筋を伸ばし、
愛したいのに疑って、
泣きたいのに笑って見せる。
陽だまりがあるのに、
「いつか嵐が来るのでは?」と怯える。
ご苦労な生き物だ。
けどな、そこが美しい。
光を探す者は、
闇を知っているからだ。
■ 神の気配、ボムが降りる
チリン、と鈴が揺れた。
神様が来る時は、風じゃなく“気配”が動く。
屋根の影から、やんちゃな顔が覗く。
ボムだ。
猫のオレ様から見ても、こいつはただの神じゃねぇ。
守り神であり、悪戯好きであり、魂の教育係。
「お、先公。相変わらず夜明けの神社で黄昏れてんのか?」
「……静かな時間が一番、魂が喋るんだよ」
ボムは鼻で笑った。
「また人間観察か。ほんっと好きだなぁお前、人間がよ」
■ 優
好きじゃねぇ。
愛してるだけだ。
不器用で、
臆病で、
愚かで、
泣きたがりで、
優しい生き物。
人間ってのは、すぐ壊れるガラスみてぇなもんだ。
でも壊れながら、光を反射する。
■ ボム
おい先公、真顔で言うな。
泣かせるぞそんなの。
それにしてもよ、
人間はホントめんどくせぇ。
「大丈夫です」って言いながら一晩泣いて、
「信じます」って言いながら疑って、
「一人で平気」って言いながら誰かを求める。
……そこが愛しいんだけどな、やっぱよ。
■ 優
ああ。
この神社に来る奴ら、みんな同じ目をしてる。
「強くなりたい」じゃない。
本当は、
“弱さを抱えたまま生きたい”
それだけだ。
それで十分だと、俺は思う。
■ ボム(茶化すように、でも優しい声で)
お前も同じだぜ?
昨夜なんか
「俺も生き方間違ってねぇよな…」って呟いてたろ。
優「あれは……風だ」
はいはい。風のせいな。
人間が“空を見上げて祈る”みたいに、
先公も神社で空気吸ってるだけだろうけどよ。
そんな姿が…まぁ、いいんだよ。
神も猫も、人間も、案外同じだ。
■ 優
人間は気づかねぇ。
猫も、神も、ちゃんとそばにいるってことに。
孤独だと思う夜、
実は一番見守られてんだよ。
■ ボム
そうそう。
人生詰んだと思って涙こぼした時、
魂は一番強く光る。
お前ら、弱くなるときほど
目に見えねぇ味方が増えてんだぜ。
■ 最後にふたりで
なぁ、人間。
泣くなとは言わねぇ。
迷うなとも言わねぇ。
ただ、一歩。
一歩でいい。
陽が出たら立ち上がれ。
夜が来たら胸の内を解け。
生きろ。
それだけで美しい。
そして、もし道に迷ったら
神社の縁側に来い。
不良猫と、やんちゃな神が、
ちゃっかり見張ってるからよ。
ニヤリ。
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今日も人間は、泣いて笑って歩いている。
それを俺たちは、ずっと見ている。