人の気配が、
静かに消えていく深夜。
テレビの音も止まり。
話し声もなくなり。
部屋の空気が、
ふっと静かになる頃――
水槽の中で、
小さな恋物語が始まる。
金魚達です。
昼間とは、
どこか違う。
ゆっくり。
静かに。
でも――
とても甘い時間。
二匹が、
そっと近づく。
そして、
真正面で向き合う。
じーっと、
見つめ合う。
その距離、
数センチ。
すると――
「チュー」
そんな風に見えるほど、
口を優しく合わせる。
私は思わず、
笑ってしまう。
えっ……
今、
キスしたよね?
そう思うほど、
可愛らしい。
でも、
恥ずかしいのか。
その後、
スーッと離れる。
そして今度は、
横に並ぶ。
まるで恋人同士のように、
ぴったり寄り添いながら泳ぐ。
上へ。
下へ。
右へ。
左へ。
時には、
激しく泳ぐ。
でも不思議なのです。
動きが、
まったく同じ。
まるで、
鏡を見ているように揃っている。
一匹が動けば、
もう一匹も動く。
速さも。
向きも。
止まるタイミングまで同じ。
そして――
突然、
ピタッと止まる。
静かな水の中。
ふたりだけの時間。
するとまた、
向き合う。
そして――
「チュー」
また、
始まる。
それを、
何度も繰り返している。
金魚の恋。
私は、
ちゃんと見ています。
誰も知らない、
深夜の小さな恋物語。
人間みたいに、
言葉はない。
約束もない。
でも――
寄り添う姿には、
確かに愛情を感じる。
見ていると、
心がふっと和むのです。
人間は、
難しく考えすぎる。
言葉。
駆け引き。
不安。
疑い。
色んな感情で、
苦しくなる。
でも金魚達は違う。
ただ、
一緒にいたい。
ただ、
寄り添いたい。
それだけなのかもしれない。
今夜もまた、
人が眠った頃。
水槽の中では、
小さな恋が始まる。
私は、
そんな金魚達を見ながら――
静かに、
癒されているのです。
